戦争とイノベーション

 ロシアのウクライナ侵攻に伴って、倫理面人道面でのショックがあまりにも大きかったのはもちろん、日常的な仕事上も考えることが多すぎる毎日。

 知財政策への影響について、これまでいろいろと情報が飛び交っていたものの、3月9日付でJETROから以下のリリースが出て、少なくとも “国家安全保障等” の目的でロシア国内で強制実施権が設定された場合、 非友好国の特許権者には対価が支払われなくなる、ということは確実になった。
ロシア連邦政府、国家安全保障等のために特許権等を実施することを連邦政府が許可した際の対価に関する決議を公表
 これはロシアの特許制度に対する信頼を地に落とすような判断だと思う。

 最近の技術提携/技術供与については、技術を持っている側が特許権として一定期間独占する代わりにオープンにしている技術と、その特許権を使用することについて対価を支払った者にだけ提供する秘密の(=クローズな)ノウハウとをセットで提供するやり方が一般的になっている。つまり、ビジネスをしようと思う国で、技術(アイデア)がきちんと特許権として保護され、対価を得られることを前提にして初めて仕事ができる、というのが国際的なコンセンサスだ。
 しかし、せっかく苦労して特許権を取った国で、恣意的な基準で無償の強制実施権が設定されてしまうおそれがあるとなれば、誰がその国でわざわざビジネスをしようと思うだろうか。そして、そのようにして技術交流が遮断されてしまった結果、イノベーションにどれだけブレーキがかかるだろうか。
 ひとつの国だけならまだしも、複数の国がこれに追随するとなったらどうだろう。これまで世界が営々と積み重ねてきた知財保護とイノベーション推進の国際的な枠組みが、根幹から揺らぎかねない。
 また数十年時計の針が巻き戻ることになってしまわないか、強い危惧を覚えている。