音の情報量の多さが印象的だった。
何の映像もない長いオープニングに流れる音楽。メインの弦がサイレンのような音をこれでもかと繰り返すのだが、ドップラー効果のようにだんだん低くなりながら、音の大きさは変わらない。遠ざかっているのは何で、遠ざけているのは誰なのか。不協和音のように聞こえるが、しっかりとした美しい和音が際立つ。
対照的に、エンディングに流れる音楽では、無数の叫び声が次第に力を増していく。それこそ耳を塞ぎたくなるほどに。
本編では、常にいろいろな音が後ろに聞こえてくる。汽車が走る音(お察しのとおり、囚人を運んでくる汽車であることが後で示される)、乾いた銃声、ドイツ人ともユダヤ人ともわからない叫び声、あからさまに囚人を虐げる怒声、それに対して囚人が上げる声、そしてヘス一家の末娘である赤ん坊の泣き声。
ここを「最高の環境」と言うヘス夫妻にはこれらの音が一切聞こえないのか、と見ている我々は思わざるを得ない。実際、引っ越してきた彼らの老母は耐えかねたのか、すぐにその家を去った。
我々は、と書いたが、視聴者の中にも聞き流した人は大勢いるだろうと思う。
ろう者向けにはどういう字幕になるのだろう。