青空文庫で公開されていたので読んだ。
菊池寛 第二の接吻
さすが菊池寛のメロドラマはよくできていて[1]『真珠夫人』とか。、ぐいぐい読ませられてしまう。ちょっと『虞美人草』の藤尾を思い出させるような悪役令嬢・京子がとてもいい。
「ね、それを誓って下さい。誓う代りに、もう一度接吻してくれない? ギブ・ミー・ザ・セカンド・キス! 第二の接吻をして下さいよ。」
昔の小説でよくある唐突な英語ってわりと性癖に刺さる。ストレイ・シープみたいなやつね。
終板の怒濤の展開も楽しい。
主人公の村川は京子の奸計にハマり、恋人の倭文子(しずこ)をめぐって、チャラい上司の宮田と夜の海岸で対決することに。
場所が場所だけに当然の帰結として、村川は宮田ともども海に落ちてしまう。
しかし水泳で鍛えた(という設定が突然出てくる)村川は陸に上がってくることができたのだが、宮田は行方不明に。
え、どうすんのどうすんの、とハラハラしている読者を置き去りに、村川と倭文子はしれっと別荘に戻ってきて、愛を確かめ合う方に夢中になってしまうのだ。さんざん接吻を交わしたあと、
「宮田君が、死んでいなければいいがなあ。」
村川は、心からそうつぶやいた。
「ほんとうですわねぇ。」
だが、今まで二人とも気がつかなかった波の音が、閉めきったドアの隙間から、二人の幸福を脅かすようにきこえて来た。
「ああ宮田さん、どうぞどうぞ、生きていて下さいませ!」
初めて恋愛の歓喜を味わい、恋愛によって生の楽しみを知った倭文子は、低く祈るようにつぶやいた。
そう思うのであればとっとと警察に行くなり捜索隊を出すなりしましょうよ、と思うのだが、そんなことをする二人ではない。死んでいなければいいがなあ、ほんとうですわねぇ、じゃないよまったく。
宮田君……。結局彼の生死は最後までわからないのである。